第3回 【まるでタケちゃんマン?】
インボイス制度が「弱きをくじく」本当の理由
こんにちは!
消費税シリーズ第3回は、多くの事業者を悩ませている「インボイス制度」の正体に迫ります。
これは、単に「免税事業者の話」ではありません。
実は、すでに税金を納めている事業者への「隠れ増税」であり、私たちの食卓にも影響する大きな問題なのです。
料理研究家として、私は日々たくさんの食材に触れます。
その中でも特に心が惹かれるのは、情熱を持って特別な野菜や調味料を作っている、小さな生産者さんの食材です。
しかし今、その大好きな生産者さんたちが、静かに苦しい境地に立たされていることをご存知でしょうか。
その根っこにあるのが、消費税の「タケちゃんマン」のような性質です。
タケちゃんマンは「強きを助け、弱きをくじく」キャラクター。
そして、まさにその言葉を体現しているのが「インボイス制度」ということなのです。
今回は、この制度が私たちの食卓にどう影響するのか、料理に携わる者としての視点からお話しします。
🔶私たちのキッチンから、あの味が消えるかもしれない
インボイス制度が「隠された増税」だということは、前回までの記事でお伝えしました。では、その影響は具体的にどのように現れるのでしょうか。
【たとえ話:愛用の八百屋さんと、こだわりの農家さん】
私がレシピ開発でお世話になっている、街の八百屋さん(課税事業者)があるとします。この八百屋さんは、味が濃くて本当に美味しいトマトを作る、小さな農家さん(インボイス未登録の免税事業者)から直接トマトを仕入れています。
ところが、インボイス制度が始まりました。
八百屋さんは、この小さな農家さんからトマトを仕入れても、その仕入れにかかった消費税分を、国に納める税金から差し引けなくなりました。つまり、八百屋さんが納める税金が、その分増えてしまうのです。
八百屋さんの店主は、苦渋の選択を迫られます。
- 農家さんに「インボイスに登録して、課税事業者になってほしい」とお願いする。
- 「今までと同じ値段では買えない。値引きしてほしい」と交渉する。
- それが無理なら、取引をやめて、インボイスを発行してくれる他の大きな農家から仕入れる。
これが、私たちのキッチンにどう影響するでしょう?
もし取引が終わってしまったら、あの絶品のトマトは、もう八百屋さんの店頭には並びません。私がそのトマトを使った新しいレシピを皆さんに紹介することもできなくなります。一つのお店と一つの農家さんの間で起こる、この小さな悲劇。しかし、これが今、日本の至る所で起きているのです。
🔶食文化の多様性を壊す「タケちゃんマン税」
この構造を、ある専門家は「タケちゃんマンのような税金」と表現しました。
食の世界で言えば、全国展開する大手企業(強き者)は生き残り、個性豊かな小規模生産者(弱き者)が淘汰されていく、ということです。
輸出で巨額の還付金を受け取ることもある大企業がいる一方で、土にまみれて正直な野菜を作る個人農家さんや、手間ひまかけて伝統的な調味料を作る職人さんが、制度のせいで廃業に追い込まれるかもしれない。
これは、日本の豊かな食文化の多様性が失われることを意味します。
こだわりの食材が手に入りにくくなることは、私たちの腸活や健康的な食生活にとっても、計り知れない損失です。
🔶 料理の基本が「良い食材」にあるように…
料理の基本が「良い食材」にあるように、豊かな社会の基本は「多様性」だと私は思います。小さくてもキラリと光る事業者が正当に評価され、安心して事業を続けられる。そんな当たり前のことが、今の制度では非常に難しくなっています。
次回は最終回。
なぜ、国はこれほど多くの人が苦しむ制度を導入したのか?その本当の理由と、私たちの未来について考えましょう。
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