食の安全、考えていますか?
「予防原則」の視点で見る赤色3号とわたしたちの食卓
こんにちは!料理研究家のわたなべたかこです。
皆さんの食卓に彩り豊かな料理が並ぶこと、あるでしょうか?
その美しい一皿一皿は、食材の鮮度や栄養価はもちろんのこと、何よりも「安全」であることが大前提ですよね。
食品添加物の赤色3号がアメリカで使用禁止になりました。
これは着色料だけの問題ではありません。
私たちが日々、何を基準に食材を選び、食卓を整えていくか、という大きなテーマにつながるお話です。
この記事が、皆さんの心の中に「自分なりの食を選ぶものさし」を育てるきっかけになればと願っています。
🔶同じ「赤色3号」なのに…日本と欧米で判断が違うのはなぜ?
この赤色3号、実は国によって扱いが全く違うんです。
- ヨーロッパ(EU): 1994年に使用を原則禁止。
- アメリカ: つい最近、ついに禁止が決定。
- 日本: 安全性に関する基準値を設け、その範囲内での使用を許可。
「え、アメリカやヨーロッパでは禁止なのに、日本では使っていいの?」
と、この違いに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
特にアメリカでは、近年大きな動きがありました。その背景を少し詳しく見ていきましょう。
【アメリカで赤色3号が禁止になったワケ】
実はこのお話、もう30年以上も前の1990年にさかのぼります。
当時、動物実験で「発がん性のリスクがあるかもしれない」という結果が出たことから、アメリカの政府機関(FDA)は、赤色3号を化粧品などに使うことを禁止しました。
でも不思議なことに、お菓子やジュースといった食品への使用は「人へのリスクはとても小さいから」という理由で禁止されなかったのです。
ちょっと中途半端な感じがしますよね。
それから30年以上、消費者団体などから「やっぱり食品に使うのも心配だよ」という声がずっと上がり続けていました。
そして、その流れを大きく変える出来事が起こります。
食の安全にとても熱心なカリフォルニア州が、「私たちの州では、2027年から赤色3号を使うのをやめます!」と、州の法律で禁止することを決めたのです。
このカリフォルニアの勇気ある決断が、国全体を動かす大きなきっかけとなりました。
ついに2025年になって、アメリカ政府も「国全体として、2027年からは食品への使用も禁止します」
と正式に発表したのです。
30年越しの議論に、ようやく一つの答えが出た、というわけですね。
🔶安全に対する「2つのものさし」
こうしたアメリカでの経緯や、ヨーロッパとの違いの背景には、食の安全に対する「基本的な考え方」の違いがあります。
ヨーロッパやアメリカがとっているのは「予防原則」という考え方です。
これは、「科学的に100%安全だと証明できないなら、念のため使うのはやめておこう」という、とても慎重なスタンス。
「転ばぬ先の杖」や “Better safe than sorry”(後で後悔するより、安全策をとる方が良い)という言葉がぴったりですね。
これに対して、日本の考え方は少し違います。
こちらは「リスク評価に基づく原則」と呼ばれ、いわば『推定無罪の原則』のような考え方です。
「科学的に『これは危険だ』という確かな証拠が出るまでは、その物質は安全なものとして扱いましょう」というスタンスなんです。
そして、この日本の考え方を裏付けるように、アメリカでの禁止の動きを受けて日本の厚生労働省は、次のような趣旨の見解を述べています。
- 日本で使われている赤色3号は、食品衛生法にもとづいて安全性の評価が行われ、使用が認められている。
- 人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量(一日摂取許容量:ADI)が科学的に定められている。
- この基準の範囲内で適切に使用されている限り、安全性に懸念があるとは考えていない。
このように、「現在の日本の基準は科学的に安全性が確保されており、ただちに規制を見直す必要はない」という立場を明確にしているのです。
🔶自然の恵みをいただく、私の食哲学
こうした国による考え方の違いや、日本の公式な見解を知った上で、料理研究家として、私はどう考えるか。
私の料理教室やレシピで一貫して最も大切にしていることは、やはり「食の安全」です。
赤色3号に限らず、食品添加物については常に気を配り、できる限り自然由来の食材や、昔ながらの伝統製法で丁寧に作られた調味料を選ぶようにしています。
素材本来の味や香りを最大限に活かすこと、それが私の料理の原点だからです。
🔶「予防原則」の視点を家庭にも
個人の食生活、特にご家庭の食卓においては、私は「予防原則」の視点を取り入れることをお勧めしたいです。
「科学的に100%安全だと証明できないなら、念のため使うのはやめておこう」
という考え方は、大切なお子さんやご家族の健康を思うとき、とても自然な気持ちではないでしょうか。
🔶自然の彩りを食卓へ。赤色3号の代わりに
ちなみに、鮮やかな赤色を加えたいときは、私たちの周りにある自然の恵みで十分美味しく、美しく仕上がります。
- 紅麹(べにこうじ)色素: 昔ながらのお赤飯にも使われる、麹菌由来の優しい赤色です。
- パプリカ色素: 鮮やかな赤やオレンジ色が出せ、抗酸化作用も期待できる優れもの。
- ビーツ色素: サラダやスープ、デザートまで、美しいピンクや赤紫色を演出してくれます。
難しく考えず、まずは身近な野菜の色を活かすことから、ぜひ楽しんでみてください。
🔶最後に伝えたいこと ~あなた自身の「ものさし」で選ぶために~
さて、ここまで赤色3号と、それをめぐる考え方の違いについてお話ししてきましたが、私が本当に伝えたいのは「赤色3号は危険です!」ということだけではありません。
赤色3号は、食の安全を考えるための、ほんの一つの入り口に過ぎないのです。
大切なのは、特定の物質の知識を暗記すること以上に、「自分や家族の口に入るものを、どんな基準で選びたいか」という、あなた自身の判断軸を持つことだと考えています。
今日の夕飯の買い物から、少しだけ立ち止まって考えてみませんか?
「このお豆腐は、どんな大豆から作られているのかな?」
「このお醤油の原料は、シンプルかな?」
「この鮮やかなピンク色のお漬物には、何が使われているんだろう?」
完璧を目指す必要は、全くありません。
情報が多すぎて、何が正しいのか分からなくなることもあるでしょう。
でも、ただ少しだけ意識のアンテナを立てて、自分なりの「ものさし」で食材を選んでみる。
その小さな積み重ねが、あなたと、あなたの大切な人の未来の食卓を、より豊かで健やかなものにしてくれると、私は心から信じています。
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