「和食の心」
『星の王子さま』が教えてくれること
「大切なものは、目には見えないんだよ」
この深く心に響く言葉は、サン=テグジュペリが著した『星の王子さま』の中にあります。
『星の王子さま』は、しばしば「子供向けの本」として紹介されますが、その内容は、大人が人生において本当に大切なことを見つめ直すための、奥深い哲学に満ちていることを、ぜひ知っていただきたいのです。
物語は、サハラ砂漠に不時着した飛行士が、小さな星からやってきた王子さまと出会い、心を通わせる中で展開します。
王子さまが旅の途中で出会うさまざまな星の住人たちとの交流、そして彼が大切に育てた一輪のバラとの関係性は、「目に見えるもの」や表面的な価値にとらわれてしまいがちな私たちの盲点に、優しく光を当ててくれるのです。
🔶真実は、能動的に探しに行く「目に見えないもの」の中に
実は、この『星の王子さま』が語る「目に見えないものにこそ真実がある」という概念は、私がずっと昔から、人生の根底に抱き続けてきた確信と深く結びついています。
人の言動は、その表面だけでは決して計り知れません。
例えば、食べることに困っている人に対し、目の前でお金を差し出す人が「優しい」のでしょうか。
それとも、魚を与えるのではなく、魚の捕り方、つまり食料を確保する知恵を授ける人が「優しい」のでしょうか。
その「優しさ」が本当に本心からなのか、その行動は相手にとって適切なのか、裏の意図はないのか、そして最も重要なことに、その優しさが結果的に相手にとって良い未来をもたらすのか
──そこまで深く考え抜いた上で行動できているでしょうか。
私が伝えたいのは、表面的な行動の奥に隠れているものこそが真実であり、その真実は、私たち自身が能動的に考え、探し、行動しなければ決して見つけることができないということです。
そして、その真実を見極め、相手にとって最善の「優しさ」を選択することこそが、本当に大切なことだと信じています。
この深く本質的な問いかけは、日々の生活の中、特に私たちの食文化「和食」の中にも息づいていると私は感じています。
だからこそ、私にとって一つの確信があるのです。
それは、「日本人の心は、和食を作り、和食を食べることで宿る」のではないか、ということです。
🔶目に見えない手間と愛情が織りなす和食
「え、大げさじゃない?」そう思う人もいるかもしれません。
しかし、考えてみてください。
和食は単なる料理のカテゴリーではありません。
それは、日本の風土、文化、そして私たちの感性がぎゅっと詰まった、「目に見えないもの」の宝庫だと思うのです。
例えば、出汁。昆布と鰹節から丁寧に引かれるその透明な液体は、見た目には地味かもしれません。
しかし、その中には、素材が持つ旨味を最大限に引き出し、料理全体に奥行きと深みを与える、計り知れない智慧と手間が込められています。
インスタントの出汁パックでは決して得られない、あの「しみじみとした美味しさ」は、まさに目には見えない「本物」の証です。
また、季節の移ろいを食卓に取り入れること。
春にはタケノコ、夏にはナス、秋にはキノコ、冬には大根。旬の食材を選び、それぞれの持ち味を活かす調理法は、自然への畏敬の念と、その恵みに感謝する心がなければ生まれません。
器選び一つにしても、料理との調和を重んじる心遣いがあります。
これら一つ一つは、もしかしたら「面倒な手間」と映るかもしれません。
しかし、この「手間」こそが、料理を作る人の「愛情」であり、それを受け取る側が感じる「温かさ」に繋がっているのではないでしょうか。
🔶「自分だけのバラ」を育てるように
『星の王子さま』の王子さまは、故郷の星にたった一輪だけ咲くバラを、旅に出て初めて「かけがえのない存在」だと気づきます。
彼は、他の多くのバラの中から、自分のバラだけが特別なのは、それに水をやり、風から守り、耳を傾け、時間をかけたからだと理解します。
つまり、「心をかけた時間」こそが、そのバラを唯一無二の存在にしたのです。
和食も同じだと思うのです。
スーパーで買ってきた総菜を温めるだけでは、もちろんお腹は満たされます。
しかし、自分で食材を選び、丁寧に下ごしらえをし、心を込めて調理する。
家族や大切な人のことを想いながら、食卓を整える。そうしてできあがった一汁三菜には、単なる栄養補給以上の、「心を込めた時間」が宿ります。
その時間の中にこそ、先人たちが育んできた和食の智慧や、食材への感謝、家族の愛情といった「目に見えない真実」が息づいています。
それを五感で感じ、味わうことで、私たちは単に食事をするだけでなく、日本の文化や精神性、そして何よりも「心」を受け継いでいるのではないでしょうか。
🔶食卓に宿る「日本人の心」
忙しい毎日の中で、和食を丁寧に作る時間は贅沢かもしれません。
しかし、その贅沢な時間の中にこそ、現代において忘れられがちな、本当に大切なものが隠されているように思います。
和食を作り、和食を食べることは、単なる食習慣ではありません。
それは、自分自身のルーツと向き合い、目に見えない豊かさを享受し、そして未来へと「日本人の心」を繋いでいくための、大切な営みなのではないでしょうか。
あなたの食卓には、どんな「目に見えない真実」が宿っていますか?
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